芳翠『楷書基本帖』に學ぶ(18)
谷村雋堂
「書海」2013年11月号より
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 今回は『楷書基本帖』の49・50頁の解説です。49頁は〔竹・林・絲〕で、同じ形の部首が二つ寄り合った字。50頁は〔品・晶・森〕と、同じ部署を三つ積み重ねた字です。

 これらの字を説文篆文で確認すると左欄のようになります。小篆は基本的に縱長で左右對稱形なので、それぞれの部品を適宜長短して並べた形に作られています。從って、それぞれの部品はそれぞれが左右對稱になっています。

 更に、隷書を見てみると(殆ど例のない晶などの字もありますが)、本来、横広の結體なので横並びの場合、互いに譲り合ってそれぞれの部品を寄せ合う工夫は感じられますが、未だ十分な結體の理念にはなっていません。

 楷書は、こうした漢字の成り立ちを毛筆という厄介な筆記具を驅使して書写する書体として、長い年月に亘り多くの人々が試行錯誤を繰り返し、略万人が認める完成體に整えられたものです。その結構の工夫や要點が、これら同形の部首を複数集めた字に如實に表れています。

以前述べたとおり楷書は名畫「モナリザの微笑」の樣にやや左を向いて佇みます。從って左方が遠く、右方が近いので、遠近法から左が小さく、右が大きいのが原則です。〔竹・林・絲〕は勿論、〔品・晶・森〕も下の二つの部品は右が大きくなっています。

楷書の偏旁は、互いに譲り合い寄り添うのですが、偏の横畫は寄り右上がりにし、より極端に右方を縮めて旁を受け容れる形に作ります。

 旁は左方をやや縮めて旁に寄り添い、偏との調和を圖ります。

 「竹」は第一畫を伸びやかに左に拂い、第二畫は短めにやや仰勢にし、第三畫は少し下方を右に引き寄せて止めを作ります。第四畫もやや上方から伸びやかに書きますが終筆は控えめにして、第五畫は俯勢にして止めを作ります。第六畫は力強く、左の縱畫と向勢に對すべくやや彎曲させて、強いハネを作ります。

 「林」は偏の側をやや小振りに右上がりにし右方を狹くし、縱畫は輕い止めにします。旁の側は左方を幾分狹めて偏と一体化させます。結果、偏の左拂いと旁の右拂いがバランス良く對應するよう心掛けましょう。

 「絲」では偏の側は右上がりに下方を右に押しつけ、下部は三點に纏めます。旁の側は、やや細身に添えて、下部は「小」に書き、結果、偏の左點と旁の右點がバランス良く對應します。

 「品」は三つの「口」ですから、上を稍大きくし、下は左をやや右上がりに下部を右に押しつけ、右は少し大きく下方を少し左に押し込みます。

 「晶」も上をやや大きくし、左を小さく右上がりにし、右が少し大きく下方を左に押し入れ気味に纏めます。

 「森」は、上の「木」は上部を大きくし、下部は引き締め、ハネ、拂いは略します。下は左を右上がりに右方を縮め、縱畫は輕いハネを作ります。右は左方を控えて、縱畫は強めにハネ、最後の拂いは強く、左辺の左拂いと調和させます。
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